kowさんは天ざる大好き

創作に絶望すると、世界が反転した日記

01月14日

朝7時まえにスマホのアラームが鳴る。止める。腕がゴム製になったみたいに力がはいらない。背中に重しがのっている。起き上がれない。ウツはどこまでオレを苦しめるのだ。

結局、布団から出たのは10時前。寝ぼけ眼のまま仕事を開始する。今日もホッシーとペアワークである。胸が苦しい。本当に胸がきゅんきゅんするんだということを知った。しかし変な人と思われるわけにはいかない。この感情は隠さないと。
オレが助っ人で入っているプロジェクトも終盤にはいってきて、作業のリードはホッシーに任せることが多くなってくる。オレは意見を述べる程度で指示することはほとんどない。ペアリングの呼吸もよくこのへんは純粋に相性がいい。考え方、感性が近いのと議論にたいして互いがオープンに構えられることと、心理的安全性だろう。正直、ホッシーにそれは違うよねーと、気軽に伝えられるし、それにたいして互いにポジティブに反応できることが期待しあえていると思う。よいチームだ。
午前中も作業をサクサクすすめて、休憩で雑談をする。雑談では休日の過ごしかたは女性の好みなんかをきいたりする。そんなの聞いてもどうにもならないのだけど、オレの乙女心はそうやって自分を追い詰めたいらしい。

お昼休憩。ウツのせいで疲労が半端ない。あとパンツがびしょびしょになっている。ホッシーと雑談しているうちに、よくないお汁がでてしまったようだ。当たり障りのないロリ系女性がでている成人向けビデオを鑑賞して一旦「無」にしてから、お風呂にはいる。オレみたいな変態にはなりたくなかった。でもいい、そんなに遠くない未来にオレはきっと死ぬんだろうから。誰のメンツも潰さない。痕跡は残さない。すべてを消去する。それでいい。わたしは当人が望んだように孤独に死んでいったのだ、と墓石に刻まれる。なんて幸せなことだろうか。

午後の作業も作業と休憩、雑談のローテーション。ホッシーが元カノにふられた話をきいて深く考え込む。あまりにオレの乙女心が出過ぎて、なぜ、なぜと深追いしてしまった。ホッシーがその話はもうやめましょう、暗くなるんで、といってオレは謝罪する。ふられたのに今でのホッシーは彼女のことが好きなんだと思うと悲しくなった。よくわからないけど、オレはただのロリコンのはずなのに、なぜメンヘラになってしまったのだろう。15歳にしてロリコン、ショタ、メンヘラか。倍満である。

身体がだるいので早めに退勤する。性的なエネルギーは高まっているが勃起はしないし、射精して発散することもできない。もう、ホッシーのことは忘れよう。プロジェクトも終わるんだ。フロイド先生は人において異常でない性欲はないといった。生物学にはそうだろう。でも、ここでは多数派ではないという性的嗜好は一生隠し通さなければならない。一族、先祖まで愚弄かかる人間が現にいるのだ。オレはカッターを手首にかけてぼんやり考える。身体的苦痛で問題を後景化させるつもりか? だったら酒でも飲めばいい。原因は一緒でも後者の方が遙かに生きやすい。結局、どちらも野垂れ死ぬんだけれども。

ジャックダニエルをロックでクスリを流し込む。うまい。うまくて涙がでる。死ぬまではしっかり生きたい。

01月12日(火)

三連休明け。スマホのアラームは7時前になる。前日は遅くまで深酒をしていた。スマホをまさぐると無意識に止める。完全停止か、スヌーズか区別もない。ただ、とまればよい。遅刻しようが餓死しようが児ポ関連で逮捕されようがどうでもいい。寝かせてくれ。身体は鉛よりも重い。

日記が大分あいてしまったので、すこし状況を整理しよう。オレはシデムシ隊のなかでシデムシよろしくごそごそと動き回っていた、活動の場を失っていく。理由はたいしてない。自分から新しい領域に行こうとしなかったこと、フレックスの時間差ラグでチームメンバーと共通の時間をつくれなかったこと。それに徹底的に打ちのめされて、精神的に死んでいたこと。これぐらいが理由ではないか、自分の認識する範囲では。

ある朝の部署ミーティングで、栞と一緒になる。RMI チームのプロジェクトが遅延していて助っ人が欲しいんで、kow さんに依頼が行くかも、とのことだった。おお、こんなオレでも役に立てるような場があるのかと意気揚々とそのときをまった。だがなかなか、そのときはこない。実はこのとき部のマネージャである笹野マネージャーがその要求を蹴っていたのだ。RMI チームとオレの相性は最悪だから、そこと混ぜるとオレがまたやっかいな病気になるから無理だとのことだ。オレが笹野マネージャーに二枚舌を使っていたことが裏目にでてしまった。オレがRMIチームを離脱するときに、チームメンバーいけすかないんだよね、とめんどくさくて漏らしてしまったことがある。うつには原因があるはずだ、とみな当然のように思うのだ。だから執拗に聞かれる。まるで精神分析だ。何か嫌なことがあるだろう、本当はいいにくいけどなにか嫌なことがあるだろう、ここだけのはなしだからいってみなさい、誰にもはなさないから。何か、嫌な、事が、あったんでしょう。死ね。生まれてきたこと自体が嫌じゃ、ボケが。うつは、一般的には内因性であって、心因性のウツという分類はない。心理的に負荷がかかるような出来事すらウツの原因の一つでしかない。彼らはウツを誤解している。だけど、それを正す気もない。何か具体的な出来事が起因になってうつを発症した。そうでなければならないのだ。なぜならば、彼らマネージャーはリスクを管理するためにその火種をみつけるのに血眼になっている。原因がないに突然、うつになってしまったら、マネージャーはマネージメントできないのである。

そして今日の、人事部長と所属部上長のミーティングも同様であった。会社に対する不満を言いなさい、同僚に対する不満を言いなさい、待遇に関する不満をいいなさい。実際の言葉はもっとマイルドだが結局そこから論理的に精神的リスクをマネジメントしようというのだ。オレは笑いながらいう。自分がやっている仕事は楽しくないしわくわくもしない、でも不満はないんです、にこにこ。するとしたり顔で突っ込んでくる。なぜ楽しくないのか、ワクワクしないのか、不満がないという言質こそが韜晦ではないか。いや、サラリーマンが全員熱血漢でプロフェッショナルでプロジェクトXにでてくる人ばっかだったらやばいでしょうが。
オレは切り返して聞く。人事部長、オレはどうあったら理想ですか?
人事部長はドライな話、と前置きしていう。オレ自体がドライだしクビになっても仕方ないと思っているけれども、そのように前置きしてくれるのはなんだろう人として敬意を払ってくれているのだとおもって静かに感謝する。
「kow が継続的に仕事を続けられること、給与に見合うパフォーマンスを出してくれること、kow ご本人が当社で働くことに魅力を感じ、当社で成長できること」
給与に見合う費用対効果があるかどうか、そのあとに従業員として満足してすごしてほしいということだ。経営としてしごく真っ当な判断だ。人事部長は信頼に値する。でも精神医学についてはオレのほうが知識がある。そのなかでどうすべきなのか。わからないだけど、むしろ乗っかってみることにした。
「オレは当社において自分の能力に見合う仕事ををアサインされたことはないと思います。でもそれは不満ではなく、それ以外にすべ挑戦をさせてもらったことである。決して無為ではなかった。でも、いまこそ、自分の能力に見合う仕事をやってみたい」
もう会社を辞めるべきなんだと薄々はしっている。だってこの会社にオレの居場所はなく、ここにいても成長はない。最後に挑戦して失敗して、あとは落ちこぼれて転職先も見つからずに海に身投げすればいい。身投げしたオレの身体は魚たちに喰われてこの世界の一部に戻る。

あっという間にミーティングは終わる。オレは今のプロジェクトが一段落したあとに休職する約束だけをとりつける。それだけでいい。人事部長も部のマネージャも厄介ごとに辟易している表情だ。当然だ。オレだってそうなる。

そうった人事面談がおわると、RMI チームに依頼されたプロジェクトの助っ人の作業にもどる。この作業を終わらせないとオレは休職できないと自分に課している。RMI チームに中途の新人として入った二十代後半のジュニアエンジニアのホッシーと一緒にペアを組んで作業をする。感情を表に出さない暗殺者みたいな男子で、一見して中性的な男性だ。最初にあったときはボーイッシュな女の子かなと勘違いしたほどだ。作業はミドルエンジニアのオレがリードしながらペアプロをする。ホッシーホッシーで真剣に取り組んでくれる。なぜ? が多い。若手がこの何故を多用できるなら、見込みがある。そういうもんやろな、と飲み込んではいけない、何故が大事なのだ。何故? と聞かれる度にオレはしたり顔で説明し、もちろん最後に、これがベストプラクティスというわけではなくオレの個人的な見解なのでもっといいやりかたはあるかもしれない、などとそれっぽい言葉のような逃げ口上のような言葉を付け加える。でもホッシーは咀嚼して納得してやってくれるのでうれしい。
そうやって仕事を続けて一ヶ月。オレに問題が起こった。ホッシーと仕事をするとドキドキするのだ。何でだろうと思ったけど、これは間違いない。ホッシーを男性ではなくて、性的な対象として見てしまっている。おー、これは大変罪深いことになりましたぞ。ドキドキ。勤務開始前に、一旦ヌいて、お昼休みに一旦ヌいてへんなことをいわないようにしないとドキドキ。なんでこんなドSっぽい後輩にドキドキさせられなければあかんねん。く、む、胸がくるしい。こ、これがこ、恋というものなんだろうか。そういえば、ボーイッシュな女の子ってかわいいよね。あれ、オレはロリコンではなくてはショタだったのだろうか。そんなわけねえ、んなことあるか、相手は男やぞ、そんなはずあるわけないやろ。オレはロリコンだあああああ。
ドキドキするなら循環器科受診したまえ、オレは心臓の病気だ。放置しねば心筋梗塞で死ぬ。よろしい、放置して死んだろやないかい!

脳髄がなんかのウイルスにやられているんだろう。正常な判断ができない。退勤する。

温泉にはいって、お酒を飲む。明日はホッシーで射精しないようにする。強いクスリを沢山飲む。

9月24日(木)

スヌーズと戦う。夢の中でスマホを破壊したはずだ。でも目の前にある。悪心があるだけで眠気は比較的ましだ。朝のルーチンワークはすっかりなくなった。ひげは生え放題、鼻毛も伸び放題、歯磨きをやめて口をすすぐだけ。食器は限界まで放置。まだベランダの柵は越えていない。

仕事を開始する。徹底的にチャンネルをミュートした Slack は必要さ象限の情報しかながれてこない。自分の前々のタスクをこなす分には困らない。チャンネルが疎結合になっているコミュニケーション設計だろう。実際には失敗しているのだろうけど。シデムシ隊の最後の最後のひとりとして最後の砦をひとりで守っている。やることは沢山あるがつまらない。やることに価値がないわけではない。給料分の仕事とするには給料がたりない。オレのスキルは一切のびず、プロダクトの堅牢性はあがる。オレは時給分の仕事をもらったと思えばいいかもしれないが、成長できなかったという点、会社に依存した仕事しかできなる、社内発言力に影響する、転職も難しくなる、その補償を含めれば給料が低すぎる。ただの愚痴だ。誰も聞いてくるわけではない。誰かにいっても、「じゃあ、やめて転職すればいいじゃん、やりたいことやれるところへ。結局はいわれるままやってればそこそこ楽でノルマもなくダラダラやっててもなんともいわれない今の現場が最高だとおもってるんだろ? 文句ばかりいって。でさ、本当は何が批判したいのよ? 本音を言えよ、めんどさくい。プロダクトの価値と自分が価値が同時にあがるほうがめずらしだろうが。そこを我慢してプロダクトの成長から次の仕事にフォーカスしたらいいじゃん。誰もできない仕事できたんだろ。社内のプレゼンスは上がったよ。保守をすべてプロセスから改善してやれよ。未来永劫つかえる義寿だ、他者でもつかえる技術だ。お前はさ、権限がないとかいってごねてるだけで、権限とりにかねーよな。雑魚。はいはい、これは雑魚ですわー。けけけけけ」
昼メシはトーストにツナマヨと茹で玉とコーンポタージュ。胃が悪く食欲がないが、コンポタとトーストならなんとか入る。納豆ご飯もありかなとおもったけど、納豆を切らしていた。
午後になって倦怠感が半端ない。でもやるだけやる。シデムシ隊がリソース不足でモブワークができないソロワーク状況では分からないことはすべてSlackで然るべきメッセージをポストする必要がある。必要なチャンネルを探す。よくわからなければチャンネルソムリエがいるチャンネルで聞く。回答が返ってくるまで数分。オレはノイマン型CPUみたいにじっくり待つ。めぼしいチャンネルにジョインする。そこで問題と解決方法にむけた質問をする。返答がくるまで数十分。待っている間別のタスクをやる。はっときづいて、Slackをみかえす。一時間も経過している。リアクションがあってやり方が記述してある。だがやってみるがうまくいかない。返信する。応答まで数十分。そのあいださっきのタスクに戻る。……これがどんだけムダだというのだ。互いに。
Slack を閉じる。恋愛のことについて考えている。14歳だって恋愛はしていいはずだ。キモサベかわいいよなあ。なんていうか男の娘だからなのか、ちらちら見える漢らしさが胸をきゅんきゅんさせる。人間属恋愛対象はいないのだろうか。シデムシ隊の新鋭、浦野さんはどうであろうか? 悪くない。だが犯罪的だ。年齢差を犯罪的だという言い方はオレの勝手な言い方だ。罪はない。栞はどうであろうか? うーん、気が強いが間違っていない。婦女子であるがそこもオタク素養があって話もできなくもなさそうだ。ただ夫にデレデレである。爆発しろ。うちの会社にはキモサベに勝てる女子はおらんのか。

仕事がおわるとサイクリング。標高200メートルの小山を登る。追い込んでも思考が停止しない。もやもやがきえない。もっと追い込めば良かったのだろうけど、心拍二〇〇でもうっすらと仕事ってなんでやってるんだけっという言葉は頭の中で繰り返すことができる。ひどい、本当にひどい。帰りしな伊花多ヶ浜による。海は荒れている。堤防に座ってすこし見ている。コンビニで弁当でもかってきて食べればよかったな。穏やかなときはあれほど優しいのに、今日は波しぶきをあげてその飛沫が風にとんで降りかかってくるほどだ。でもこの荒々しい海は好きだ。

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伊花多ヶ浜

家に帰る。風呂に入る。疲れすぎていると風呂に長く疲れない。すぐアチアチになってお風呂をでたくなる。ゆっくり入りたいのだけどなあ。
晩酌は唐揚げとブロッコリー。マヨネーズはたっぷり。ハイボールを濃いめにつくる。
執筆作業をする。日記なんてやめればいい。日記を書くぐらいなら、去人たちZEROのノベライズをやってしまえばいいのに。でも、去人たちZEROは本当につまらない。

クスリをのんで寝る。

9月23日(水)

目覚ましが鳴る。ゼロフレームで世界が切り替わる。オレは一フレ前に本当に寝ていたのだろうか? まるで映像の編集のような目覚めだ。週明け、仕事ができる。やることができた。

仕事を始める。一人になりたい。Slack のチャンネルを片っ端からミュートにしていく。もしかしたら一喝でミュートするプログラムを書いた方が早かったかもしれない。オレが思っていることを最も正しく伝える方法は対話によるコミュニケーションだ。オレはオレの思っていることを誰かに伝えたい。文字は素晴らしい。それは書くという行為があったという前提を理解し、いくつもの間違った世界を見せてくれるからだ。小説において文字はとても有効だ。幻想的な物語はテクストに限る。赤毛のアンが映像によりある程度固定化されてしまうなら、それは毎年毎年新作を出してもいいかもしれない。とにもかくにも、仕事上必要なコミュニケーションに幻想性は不要だ。逆に言えば、文字は不適格ですらある。Linux カーネルメーリングリストで議論されて開発、保守されているらしいが、メンバーの気が触れないのはどうかしている。課題、解決方法、解決方法の結果生み出すべき成果物、これを自然言語で正しく伝えることはできない。自然言語は不確実でリアルタイムのやりとりでなければ意味がない。
これでテキストによる非同期メッセージはこなくなった。オレは自分のライブ配信URLを公開する。ただもくもくと作業をしている、もし気になるのならばそこに来てくれれば良い。結果、退勤まで誰も来ない。オレは自分では解決できない問題を Slack でいくつか助けを求めたがソースを読めと言われた。誰が悪いわけでもない。もはやレガシー化したものを教えられる人が居ない。今やっている表示項目を変えるという些細なプロダクト改善にリバースエンジニアリングを含めたコード解析、コードリーディングをしてやっと解決した。Easy にしようとして SImple でなくなってしまったレガシーの例。Easy を目的につくられたライブラリは毎日更新されるぐらいでなければ、と思う。典型的な開発者のユースケースに答えてくれるファサードを作ろう。大いにけっこう。Easy の仕組みを理解してそれを越えたことをしようとしたときは Easy の仕組みを理解いして改変する必要がある。地獄である。欲しかったのはファサードですか? ビルダーですか?
先週に丹波さんへお願いしたプルリクエストをレビューの提案がある。単一責任の指摘。イラッとする。いや、正しいから。オレたちは本当にいま単一責任に注目すべきだろうか? 汚染されているコードがどんどんとマージされてくるのに、いまさら、このプロダクトに価値を与えないところで単一責任!? オレは散々愚痴をいうが、所詮負け戦だ。レガシーソフトウェアを改善するには新しい負債を作り込まないことは最低条件だ。再度レビューを投げる。
フラれまくる、細かい改修案件を地力で進める。くだらない。秒で終わるものばかり。実際には数時間かかる。改修前のコードを想像していないから、どこまでリファクタしていいものかも難しい。
チャットがほとんどことがすばらしい平穏を迎え入れた。仕事はオレが一人でやればいい。ほんとうに重要なことだけメンションでやりとりすれば良い。チャットはなんだったの。とりあえず知っておいた方がいいかな、はしっておく必要などまったくなかたったのだ。何よりも心にゆとりがうまれる。よし。

仕事が終わるとサイクリングにでかける。仕事を抜く。明日は雨らしいので、今日が回せるチャンスだ。羊鳥ヶ岳逆周ルート。ドライブトレインの調子が悪くなってきている。シフトチェンジがいまいちテンポが遅れるようになってきた。3000㎞はしったらショップで点検してもらってくださいといったが、そろそろいった方がよさそう。もよりのスポーツ自転車ショップまで100㎞ぐらいあるので往路はいいとしては帰りは電車だな。坂道を登る。最高で10%程度のほどほどの坂道。海岸線沿いだとアップダウンが走破するには思いのほか体力がいる。万座のように単調登りだとペースも掴みやすいんだけど。
坂道を登る。夏も終わり。蝉がメスを求めて最後に鳴いている。弱ってるんじゃない。どうせもう死ぬのだ。全身全霊を込めて腹から鳴け。いけるさ。額からこぼれた汗が目に入ってしみる。頬伝って顎から汗がしたたる。苦しくて気持ちいい。登坂の中盤で心拍一八〇、呼吸は乱れている。ペースを落とすしかないのに、回し続ける。きっとこのまま回せば死ねる気がする。気管支がゼイゼイする。呼吸が荒くなるだけで酸素を有意義に取り込めなくなる。思いっきり吐き出す。思いっきり吸う。足を止めない。一定の角速度を維持せよ。耳鳴りがしてくる。手が震えてくる。太もも、ふくらはぎ、膝の折り曲げに異常蛾生じ始める。重だるい。腕は力が入らない。上半身を支えられない。ハンドルバーに寄りかかる。つらいときこそフォームを意識せよ。上半身を挙げて肺に空気が取り込まれるように、ペダルのリズムを崩さないように。まず、ケイデンスが破綻した。頂上の見えない上り坂をみて心が折れる。口の中に血の味が広がる。激しい呼吸をしすぎるとこの味がする。それはいいのだけど、オレにとってはオーバーワークのサインになっている。定期的に負荷をかけているならまだしも、週数回のエクササイズでこの負荷のかけ方は無謀だ。頭の中でそう合理化する。足をつく。ハンドルに肘をついてぜいぜいと空気を貪る。汗が次から次へとしたたりアスファルトにシミを作る。息も絶え絶えで岬に到達する。夕日を眺めながら小休止。オレが鳥だったらこの海原の上に飛び出して羽を広げているだろう。実際、トンビが気持ちよさそうに飛んでいる。

家に戻ると風呂に入る。二名の先客がいるか、あいさつをするだけで絶対に目を合わせない。今日、オレは在宅勤務のWEB会議サービスでも目を合わせなかった、いまになって目を合わせるわけにはいかない。目を合わせないのは失礼と聞いたことがある。逆に言おう、目を合わせるのは信頼できる人だけだ。なんの見返りもないのに、しらないおっさんとセックスしますか? オレにとってはその問いににている。でも見なければセックスしていい対象かどうかの判断基準すら手に入らない、というお叱りは十分にわかる。話をシンプルにしよう。オレはいまおっさんとセックスをできる余裕がない。イチも二もなく視線は避ける。
風呂を上がって晩酌。冷凍からあげに死ぬほど大根おろしをかけておろし唐揚げ。ポン酢で頂く。冷や奴は削り節とショウガ、めんつゆでいただく。お酒は濃いめのハイボール。血液検査の良かったとはいえ破綻的な生活に近い。さっさと飲んで寝るに限る。ロックのウィスキーで眠剤をあおる。医者が絶対に止めるやつだ。用法として百パーセント間違っている。そういえば、むかし、ハルシオンとお酒の組み合わせで迷妄したことがあったけっけな。鬼束ちひろもいっているように、効かない薬ばかりがちらばっている。

クスリは効いている、きっと。寝る。

9月26日(土)

金曜日はリーン開発の真逆をいく仕事。問い合わせ、回答待ち、問い合わせ回答待ち。それが並列で三本。ひなたぼっこしたり散歩したりしながら気分転換を試みるが効果は薄い。共に働くことのその心地よさだとつくづく思う。ただ、共に働くにはわたしたちはあまりにも人見知りしすぎているだけだ。あいつと一緒に仕事? 気持ち悪い。直接やりとりすんなんてなに言われるかわからない。みんながいる Slack を挟んで防御しなきゃ。オレなんか、彼のような優れたエンジニアの時間を奪ってはならない。slack で返信がくるのをまっていよう。日本の奥ゆかしさ、謙虚さのようなものもあるかもしれない。だけど、目的のための障害となっているようならば取り払うが良い。オレは障害を取り払おうともせずストレスをためた。

今日はタンブルウィードに行くと決めて前日の寝る時間まで調整した。やる気満々である。キモサベにあげるおやつをハイパーマートで買う。ゴルゴ先生の強烈な視線やぜったい仲良くなれない圧倒的な強い先生感に怯えてはいるがキモサベに会うために仕方ない。ムダなおしゃべり一切なしでも気まずい思いがしないのはいい。間に馬がいてくれるのでオレは馬さんと楽しんでいればいい。ムダなおしゃべりがある床屋とマッサージ屋だけは本当に大嫌いである。まるで話しかけるほうがよいサービスだと勘違いしているみたいだ。何回かかよって、短い相づちしか打たないことに気づいてやっと社交辞令で終わるようになる。最初は苦痛である。今日はキモサベにのれることに。キモサベはベテランの余裕で洗い場に繋がれている。おはようとあいさつをするとキモサベ興味なさそう。このツンデレがまたかわいい。見てるけど見てないふり。草食動物としてそもそもかなりの視野で周囲を捉えているがお前にはとくに中止すべき存在じゃないから、という。まあよい、あのキモサベの筋肉隆々の肩とお頚を触りたい! 触りたい! それじゃあ失礼しますね、とキモサベの目をのぞき込みながら声をかける。頚を愛撫してあげて、多少敏感な鬐甲をわさわして膁もマッサージする。さらに我慢できなくなって、腰に全身でぎゅーっとする。ひゃーあったかいなり~。たべちゃいたいよう。しかしタンブルウィードのお馬さんたちはゴルゴ先生の方針ですごく穏やかな性格。だからこそこんなこともできる。ゴルゴ先生がボスとなって絶対の信頼を寄せているからこそ、ゴルゴ先生の生徒には警戒が和らいでいる。でもゴルゴ先生がなんどいっているが、臆病な動物なので常に暴れることがありえる、それは動物の本能として、そうなったら人間には手がつけられない。捕食する側の動物であるオレと捕食される側の動物であるキモサベの間には遺伝子レベルで越えられない壁があることを理解しないとなあ。人は生き物を理解するときに、感情移入的に理解すること頃がある。つまり人間の感情で理解できない行動をする動物を排除する気持ちが働いてしまう。感情では鳴く、論理的な共感こそが異種間交流には大前提となるだろう。お馬さんの本もっと読まねば。今日のレッスンも軽速歩。オレは馬上で四苦八苦。キモサベは接待モード。ゴルゴ先生の指示が飛ぶ。キモサベの自由に走らせないで。あくまでも人間が指示してるんだとキモサベに指示して。指示したつもりでは意味がない。キモサベに伝わってないとおもったらもっとやり方を試行錯誤してみて。手綱ひきすぎ、キモサベの頚があがっていたら引きすぎ、平行になるぐらいに、ただしつねに手綱は張って得る状態で。手綱をもっている手は固定しないで、頚の動きに合わせて柔軟にあわせられるように。じゃないとキモサベが走りにくいよ。馬上では椅子のように座るのでは亡くて丸太のように座る、動くのは腰だけで上半身は動かない。足首の力抜いて、もっとリラックスして立ち座りする。鐙はもっと指先側で踏んで。自分が進みたい進路をイメージしてズレてからからじゃなくて早めに指示だす。毎度のことだが頭がパンクする。どれか一つに注力するとどれ以外がおろそかになる。リーン開発のことを考えると同時にやるのは理にかなっていない。一つひとつ課題を解決していくのはダメなんですか? とゴルゴ先生に問う。一つを完璧にして次のことをやってもあまり効果がない、すべての動作が有機的に連動してはじめて人馬一体なのです。その説明はオレには完璧だった。麻酔だけはピカイチ、医療器具の扱いだけはピカイチ、切開だけは世界一、縫合だけなら神業、そんなチームに手術されたくない。目的のために連携して技術を発揮できることに意味がある。チームとはそういうものだ。30分のレッスンが終わるとキモサベの身体を拭いてあげる。良いからだ。前は結構、蕁麻疹がでていたのだけどだいぶよくなった。ストレスもへったのかな。力加減いかがですかーなどと、マッサージ師さながらにキモサベにはなしかける。目線はこっちをちょっとみてるけど感情はない。キモサベのこのツンデレが最高にかわいい。他の馬さんは身体をよじったりイヤイヤしたりする。気持ちいいところはぎゅーっと身体を寄せてきたりする。きゃーかわいい。たべちゃいたい。キモサベはおしりをきれいにしてもらうのが好き。ふきふきすると尻尾をあげてゴシゴシ待ちする。ただ今日はハエがでてきたので尻尾によるムチ攻撃がたまに入る。これはご褒美なのだろうか。最後にバナナを一緒に食べる。オレも朝飯抜きだ。おやつみると目の色が変わるから面白い。冷たい目線からの突然の凝視である。笑っちゃう。バナナをあげると手のひらべちゃあ、ヨダレ、ヨダレ! 鼻息を荒げながらうまうま食べる。キモサベにさよならを告げてレッスンを修了。

土曜日もやっぱり外にでるのがいいなあ。部屋にもどってお風呂にはいってのんびりする。軽速歩で内股の筋肉が張っている。よくもみもみする。お昼は冷凍食材とパスタ。冷凍ささみ肉を解凍、冷凍ブロッコリを解凍。マヨネーズと黒酢ドレッシングを賭けて食べるだけのシンプル料理。だがタンパク質もとれて手間の割に味もかなりいい。パスタはペペロンチーノをいただく。その後、昼寝。疲れもあってかきもちいい。

夜はドラマを見ながらハイボール。プラージュ~訳ありばかりのシェアハウス~ 第1話 から一気にみる。最後まで見られるドラマが最近少ない中で最後までみられた。ドラマの筋というよりも仲里依紗演じる小池美羽がよかった。視線移動やまばたきのタイミング、あれを小説で説明してもイメージが湧きにくい。たぶんマンガでも困難ではないだろうか。他の映画やドラマでもそういうのをみていたのかもしれないが、今回はとくにその演技が気にとまって、仲里依紗が次はいつでてくるんだろうとワクワクして見られた。多少、大げさな演技なのかもしれないが、オレもあんな風なのかなとおもうと、よくみんなオレに話かけてくれるなと思う。

無理してでも外出することは体調を回復させてくれる。どん底をみていまここに居る。またいつどん底に戻るかもわからない。逆に考えるんだ。今のうちに終わらせるのもありかもしれない。クスリを飲んで寝る。