kowさんは天ざる大好き

創作に絶望すると、世界が反転した日記

5月15日(金)

いつもの埃っぽい布団の上で目覚める。枕元にはスマホがあり、設定した目覚ましがあと数分で鳴ろうかという時間だ。昨日は夜遅くまでずっと最後の荷物を箱詰めしていたせいで、4時間程度しか眠れていない。しかも、引越が朝一でくるので神経が高まってずっと浅い眠りのままだった。
もうちょっと眠っていたい欲望をかなぐり捨てて、起き上がる。窓を全開にして空気を入れ換える。天気は良い。オレの目には何色にも映らない。radikoを聞きながら最後の荷造りをする。布団をしまい、歯ブラシや着替えや掃除道具だけを別の場所に待避させる。

f:id:kowasuhito:20200509085652j:plain

まもなく、アート引越センターから電話がかかってくる。もうすぐ着くそうだ。やれるだけの荷造りはした。申し訳ないがあとはなんとかしてもらおう。すぐに到着すると、作業員の二人が挨拶をする。オレは目を合わせず笑顔でお辞儀をする。まだ若い男女が二人で、男の方が指揮を執るようであった。持っていくものいかないものを軽く説明すると早速作業に取りかかっていただく。なかなかの手際だ。なんども引越しているだけに、この辺の手際の良さはどうしても目がいってしまう。
引越搬出の作業時間見積もりは「多くても2時間」という事前見積もりで確認していた。しかし、11時になろうという時間でもまだ大物家財が残っている。ちらちらと、作業を見ていたがさながら馬車馬である。
「もしかして、営業さんの見積もり間違えていました?」
「あー、まー、そうですね、混載便じゃなくてチャーター便になっちゃって……トラックがすでに一台出発してますしね……あっ、まあまあま、お客様には一切追加請求などはございませんので」
営業と現場か……オレの仕事も似たようなものだ。一ヶ月で終わりそうもない仕事をしたり顔でとってきては苦労させられる。オレは心の中で同情する。
部屋が空っぽになったは12時すぎ。作業員は休憩もいれず3時間半も作業したことになる。そんな必要はないのかもしれないが申し訳ない気持ちになる。
「荷物の搬入は明後日の5/17の日曜日ということでよろしいですか? 搬入の時間帯については引越先の事業所のものより連絡いたします。お客様が引越先がすこし特殊なので」
愚痴の1つもいいたいのではないかと思うが、青年は笑顔で応対する。オレは礼をいうと作業員たちは撤収していった。

何もない部屋でぽつんと。radikoの音が反響する。何もない部屋は音が反響するのか。まるで四方から責められているような気がする。この部屋にずっといる、というのも、それはそれでよかったりしなかったのだろうかなどと、躊躇もしてみるが後戻りはできない。

f:id:kowasuhito:20200509133714j:plain

引越先の我文町の荷物搬入は明後日、今日はこの何もない部屋で寝袋で寝ることになる。当面の大阪での最後の飯も考えなくては。晩酌用の肴と酒を調達してきてから、あとは家の中を簡単に掃除する。不動産管理会社にはハウスクリーンニングがはいるので、埃が立たない程度でいいですよ、とはいわれている。どちらかという何もせずにこの部屋にいれないし、いる以上は痕跡を消してしまいたかった。夕方5時ぐらいからお惣菜をアテにしてビール、ウィスキーとぐいぐいとやる。
19時もすぎると、こんぐらがっていた感情も制圧され世界はふんわりとする。いまのうちに寝てしまおうと寝袋を引く。スマホを手元によせると珍しくあいつからSMSが届いている。電話番号だけは変えていないので、繋がろうとすれば繋がるっていうヤツである。
「引っ越すってきいたんだけど、一緒に住まない?」
心の中に土足で踏み込んでくるやつは大嫌いである。まあ口ではあまり言えてないが、表情では十分伝えているはずである。それとも冗談か? どうでもいい。とりあえず、拒否の返信をする。

明日は我文町へのんびり旅。さようなら。