kowさんは天ざる大好き

創作に絶望すると、世界が反転した日記

6月3日(水)

目覚めが一日の底。ここからどう上がっていくか。前日は二十時間睡眠という悪性うつの典型みたいな一日をすごした。お布団のネオジム磁石化とよんでいる凶悪な誘因力でもってオレを布団に縛り付ける。この時間が長く続くと今度はオレが磁化してしまい抜け出せなくなる。人生の終わり。
目覚めとともに磁気が弱まっていることに気づき、転がって緊急脱出する。全身に力が入らず吸い寄せられる。部屋を脱出するのだ。一日ぶりに大浴場にいく。風呂で人にであう。幻のようにみえるが実在する。非占領下。心拍数があがる。

自室に戻る。磁化した身体は布団に吸着しやすい。逃げる。快晴。外出タスクをねつ造する。タンブルウィードに行く。アイスコーヒーを注文して自分も馬になったみたいに顔まねをしながら仲良くなろうと試みる。おかみさんが再び乗馬をすすめてきた。オプション料が高いがなんでも危険に地帯に踏み込んで世界がなくなってしまえば良いのにという病的心理状態、オレは提案を受ける。

乗馬のトレーナーはアイスコーヒーを淹れてくれたおかみさんのご主人で鋭い眼光を持つゴルゴ似。しゅっとしている。無骨、いや、無愛想? 立ち居振る舞いが様になりすぎている。くわえたばこなんて、だらしなさがでるものだが様になりすぎて怖い。人間同士のあいさつはほっておいて、馬とのあいさつ。紹介された「キモサベ」は二十歳でセン馬の超ベテラン。セン馬は去勢されて馬と教えてもらう。道理で悲しい目をしているわけだ。オレはキモサベについ共感を抱く。馬にまたがる。視線が思ったよりも高く、生き物であるからしてどこまで自分の体重をかけていいのか、かけたら申し訳ないという気持ちでいっぱいになる。キモサベはしょうがねえやつだなあと呆れている。キモサベとオレの期待がすりあっていないのだ。ゴルゴはお構いなしである。はじめてなんてこんなものなのだろう。お尻のところでしっかりと乗る。揺れは腰の部分で受けて重心がずれないようにする。足で上半身、手でバランスととらないようする。手綱はほとんど張るような状態、手は身体の中心、あまり広げない、拳一個分あけて置く。鐙はつま先法で踏んでかかとを落とす。馬に身体を任せる。肩の力を抜く。上半身はぐにゃぐにゃにならないように。馬から背筋は直角に。目線は行きたい方向を見る。手綱が伸びてきたら短く持ち直す。
三十分の乗馬体験はあっというまに終わる。キモサベの首を撫でて感謝を述べると、キモサベはしょうがないグズ野郎だぜとそっぽを向く。なんでもかんでも謝っていれば寄り添ってくれるわけじゃない。馬はよく知っているようだ。じゃあ、またな、よろしくおねがいします、先生というと馬もしょうがないなあといういななき。お願いされたら断れないのは助かる。会計しながらおかみさんに感想を聞かれる。良かったと答えるしかないが、実際は謎のような感覚。脳を取り出して分解されて独立した器官をばらばらに動かせるという自己の分解体験と同時にキモサベという圧倒的な他者のもと再統合されようとする気持ちよさ。人馬一体とはどのような状態を指すのだろうか、先が気になる。

一度家に帰って昼食をとり熱っぽい脳を覚ますためにペダルを回す。風呂に入って汗を流す。疲労感。このあとに産業医による復職判定面談だが別に筋肉を使うわけでもなしよいだろう。心理カウンセラーと産業医のオンライン面談。事実状況の確認ばかりなのでイライラしてしまう。事前に書面による回答を我慢してやったものだから、口頭である必要がないじゃないかと思ってしまった。イライラはすぐに顔にでるし、いつも冷静になったあとに後悔する。いかん。要約すると、まだ復職しないことをおすすめするとの意見だった。食木崎先生とは違う判断。なるほど、オレは食木崎先生に転移しているといっていたではないか。所見のドクターの意見は貴重かもしれない。
そのあと、人事部のマッキーと面談。久しぶりにみるマッキーはダークモードになっている。みな、コロナ禍でいろいろ抱えているのだろう。産業医の意見をふまえてどうしましょうかなどと雑談をして、もうちょっと様子みましょうか、ということになる。定期的に面談をいれるなどして復職できるようサポートしてもらう。マッキーはダークなアニメばかりをみてゴールデンウィークを過ごしたとのこと。あそびあそばせぐらいにしといたほうがいいですよ、ちょっとだけフォロー。

適当に冷凍食品を温めて軽い食事をとる。エクリプスのミーティングの準備をしないといけないが腰が重い。安定した生活の基盤となるお仕事が上手くできない状態で、何かを作るなんて気持ちにならない。状況を改善される未来を期待してエクリプスの作業はあがきながら滑空するしかないだろう。体調が優れないことをメンバーにつたえてミーティングを開始する。アイスブレイク。河合さんはコロナ第二波で日本が滅んでしまえばいい、キャハハと愉快そうに笑う。人類が滅びれば地球はもっと良くなるだろう。前向きな考えである。音楽の話になると二人の話題には全くついていけない。行方さんはそもそも音楽関係の商業クリエイターだし、河合さんはサブカル系に泥沼までにはまり込んだ女史である。戸川純筋肉少女帯をおすすめしてくれるからなんとなく安心するがその界隈を網羅した広く深はなしはちんぷんかんぷんである。オタクはすげえなといういうと、自分もオタクじゃないかと指を指されて笑われる。オレのどこにオタク要素があるのだろう? 自身をもって議論できそうなジャンルは何もない。唯一マニアとおもっていた筒井康隆についてもずっぼり記憶がなくなってきている。オタクという称号はなにかと免罪符になるので欲しいところだが、オタクだといけることは何もない。オレは抗弁したがどうしてもオタクだと河合さんがひかないのでむっとしたが引くことにする。オタクを尊いモノとして先入観ではなく実質で判定すべきである。アイスブレイクを終了して本題に入る。
インセプションデッキの最後、オレたちの最強チームとは何かを考える。これができれば短縮版インセプションデッキは完了である。プロダクトオーナー、プロジェクトマネージャーの全体を見渡す役割をそれぞれ一人ずつ、プログラマーチーム、グラフィッカーチーム、コンポーザーチーム、ライターチームの職能チームを各二人ずつとり、属人性の排除とチーム開発としての創発を促す。私たちが創ろうとしているものは、分業化によって低コストで作成できるとりあえずの同人作品を否定している。よし、と思える一方、心がずっしり重い、吐き気のような感覚。そのあとにドラッカー風エクササイズを行い、今回のワークショップは終了する。ゲーム開発のしっかりしたプロジェクト管理、チームビルディングはオレの経験値を高めてくれる。何が気に食わないのかわからない。世界が灰色で感情も動かない。ぶっ壊れている。安ワインをすこし飲むが酔いもしない。薬を飲んで寝る。