kowさんは天ざる大好き

創作に絶望すると、世界が反転した日記

6月5日(金)

五時覚醒、嗚呼、今日はダメな一日になりそうな予感。頑張って二度寝する。八時に身を起こす。脳みそが液体金属みたいにどろどろになって脳内でゆっくりとたゆたう。身体は流体多結晶合金のように流動的で重心がうまくとれない。身体を固定させると、安定した子泣き爺がおぶさってくる。毎度毎度、オレをダメにしようとくるが一体なんの得があってのことだ。山へ芝刈りへ行ったおじいさんのようにゆっくりと起き上がりのそりのそりと台所へ、水を飲む。空は青く灰色。今日は暑くなりそう。
シリアルをたべながら午前のアクティビティは何をしようかと考える。すべてが気が重い。海に飛び込んでそのまま沈んでいようか。オレは貝になりたい。占領下にある部屋からでさえすれば、なんにマシになるのだ。でも身体が重い。馬がいいなあ。

タンブルウィードにいくと先客のおばさまが乗馬をしている。速歩でしゅっとのっている。外からみていると事もなさげ。オレは前回馬上でバランスに四苦八苦していたが、どんだけ見苦しかったのだろうか。見栄や世間体ばかり気にするのは本当にアホみたいだが自分が見苦しいのは許せない。たとえば熊に襲われたら仁王立ちで死ぬことをよしと考えるが、実際は小便をもらしながら逃げまくったあげく背中に傷をおって死ぬはずで、そんな見苦しい姿は誰にも見せたくない。
今回も乗馬オプションをつけてもらう。今日も馬はキモサベ。心配そうにオレ見ている。頼りなくて申し訳ない。ゴルゴ先生が横について姿勢、バランスの取り方の復習、手綱をつかった指示。用語の説明。常歩(なみあし)、速歩(はやあし)、駈歩(かけあし)。速歩を少しだけ体験する。がっこんがっこん、こんなに上下するのか。でも楽しい。この圧倒感、力強さ、素敵、惚れる。馬の揺れに合わせて立つ、座るを繰り返す練習。鐙に力を加えるには重心が足の真上にないと立てない。独り相撲になるともうごちゃごちゃしてうまくいかない。次回の課題とする。
キモサベの顔と首をなでなでしてお礼を言うが、まったく箸に棒にもかからない感じにそっぽを向かれる。なにか、攻略の選択肢を間違ったところがあっただろうか。次回のイベントに期待する。

家にもどってお昼。軽い運動の疲労と倦怠感が相まって布団の磁力が増す。だめだ、シーツを洗濯してお布団使用禁止にする。気が乗らないが執筆作業。
十四時からは復職向けた生活改善のためのサポート役になってくれる笹野マネージャーとのオンラインミーティング。前回、ダークサイドマッキーの疲れっぷりからすると、もろもろが共有されていることはなさそう。復職がなしになった経緯やら設定されたミーティングの目的などを共有する。ミーティング枠だけ設けて、どういう趣旨かわからないミーティングに誰も文句をいわないんだから辛抱強い。現状の共有とともに、会社の開発状況も仕入れる。現状のリアーキテクトを進める「セプトアギンタ」プロジェクトが停滞しているとのこと。人員不足が原因だが代替できるスキルをもつエンジニアがいないらしい。うちの会社は組織を俯瞰できるヤツがだれもいないし、いなくなって初めて気づくようだ。開発は両輪がそろってはじめてうまくというが片輪すらガタガタだ。オレは失望したし失望したと正直に笹野マネージャーに伝えると苦笑いされる。オレは心配性で神経質で心を病んでしまったんだと思う。誰とも見えている世界が違う。ときどき助走を付けてとびだしたくなるのは正しいのかも知れない。

十六時まで一進一退の執筆をする。オレはオレに飽き始めている。オレは使えない、面白みもない。肩が重い。寝るまでの間、オレはオレを楽しませるために何をしたら良いか、思い浮かばない。ただ、身体を起こしていることにも限界がくる。どうでもよくなり布団に横になる。疲労感はあるが眠気はこなかった。豚の丸焼きをつくるみたいに、布団の上でごろりごろりと回転を続ける。一日の時間を短くして早く終わらせる儀式だ。これで一日を二十時間にすることに成功したことがある。一日よ、早く終われ。念じると時間は十八時。日も落ち始めている。目に見えてわかる時間経過、儀式は成功した。オレは一日を仕舞いはじめる。
夕食は冷凍餃子をいただく。最近の冷食は神がかっている。低価格で価格以上の味を提供する。一人分のおかずを自炊しようモノなら食材費も調理時間を含めたコストもトータルで勝ち目はない。補給としての食事は無味乾燥だ。食事は創作に似ていると思う。消費されるだけでいいのか、それを拒否するのか。料理はコスパを度外視した何かがある。冷凍餃子は静的であり構造的で、それを胃に収めるという行為は消費である。いわゆる「手料理」と記号化される料理は動的であり時空間的広がりをともなう、一般化が困難な演芸的な要素を含んでいる。一人暮らしで手料理が得意というのは、なんらかの幻想の中にいなければできないし、それは異常だが間違ってはいない。オレはオレを正常だと思うし、間違っているのと思うのだからオレの考えは論理的に間違っていないと信じている。料理も、創作も、他者を必要とする。もうずいぶんオレは料理にこだわらなくなってしまった。

満腹じゃ、ぽんぽんと腹鼓を打つ。外をみると明るい。月が見える。二十時過ぎ。もう寝ても文句はないだろう。オレは今日一日をうまくやった。パイパーマートにいって半額お惣菜を狙うなら最適な時間だった。ぶらぶら夜の農道を散歩して食糧を買いだめする。異界化した我文町の農道は延々と水田が続き、カエルの鳴き声であたりは静まりかえっている。思い描いた世界の終わりがやっと来たのかも知れないと錯覚する。ペダルをいくら回しても水田はつづきカエルの鳴き声はどんどん大きくなり無限にループする。現実に帰ってこれなくなるよ、と警告される。本当に悩んだけど、Uターンしてオレは来た道を引き返す。ハイパーマートで半額のお惣菜を買い込んで家に戻る。月は満月のように見えた。