kowさんは天ざる大好き

創作に絶望すると、世界が反転した日記

6月16日(火)

今日はタンブルウィードに行く日。どうしてもキモサベに会いたくて予約していた。行くからには生活リズムを強制するために十時に予約する。平日に予約など必要なさげだけど、予約することによって強制力が発生する。タンブルウィードのご夫妻にとってはたぶんいくら遅れようがずれようが気にしていない。土日祝日ならいざしらず、自粛ムードの今、平日にダブルブッキングのような状況はあまりない。
七時に覚醒し、ねむみで目を閉じる。八時に覚醒し、起きようとする。朝の儀式やお風呂という贅沢も追加すればぎりぎりの時間。眠い。お風呂はキャンセルだと決め込み、自分が自分に課すルールとして起きなければと思い、目を閉じる。五分おきに目をあける。でも時計は十分進んでいる。オレは世界から取り残されている。八時五十分になりいよいよ限界だと思い身体を起こす。排尿し冷蔵庫から水を取り出し飲む。昨日も誰かがオレの身体に酒を流し込んだとみて胃が重い。酒量が制御できないのだから、一人で酒を飲むのは止めた方がいい。
歯を磨きひげをそり、買い置きの菓子パンをもふもふと食べる。着替えてでかければちょうどというところ。頭がまわらない。キモサベに会えるのはうれしいが、ご夫妻とのあいさつは苦手だ。頭の中で天気の話や時事ネタを作り込む。馬鹿らしい。ご夫妻も馬だったらこんなしたくもない話題を考えなくても良いのに。
途中、市場でにんじんを買っておく。キモサベのおやつにしてだいちゅきタイムを楽しむための必須アイテムである。タンブルウィードにつく。ご主人はタンブルウィードの馬場を均している。洗い場にはキモサベが待機している。草食獣らしくオレもよりも先にオレに気づいているだろうけども、懐深く構えている。コミュニケーション障害者としてはとても助かる。キモサベは胸を貸すからどんとこい、と男気ならぬ男の娘気をみせてくれる。キュンとしてしまう。キモサベにおはようとあいさつして愛撫する。キモサベは不満そう。人間基準で撫でられてもボクには……という空気。ボクは馬、お前は人間、一方的に取り入ろうとしてもダメにきまってる、まあまだ出会って短い、しかないかもしれない、でも、ボクは馬、お前は人間、その間を埋めるのがコミュニケーションじゃろ? キモサベの目をみてオレはどっきとする。ゴルゴ先生がいつの間にか来ていて、おはようございますと声をかけられる。人間でよかった。オレは頭をさげておはようございますと返す。
レッスンは常歩と軽速歩。軽速歩でキモサベと呼吸が合わない。キモサベはイヤイヤする。馬上での重心や立ち方でバランスがとれてない。
レッスンのあとキモサベは全身を洗ってもらっている。。オレはキモサベの顔を拭いてあげる。キモサベはイヤイヤする。そりゃ、そうだ。キモサベが気持ちよく走ろうとしているので馬上で逆の負荷をかけてくるヤツなのだ。むふぅ、たいへん不満ですよ、とキモサベがいう。オレは自覚があるから困る。頭をかいて誤魔化す。ゴルゴ先生が助け船をだしてくれる。本当に嫌だったら、人間ではどうしもようないぐらい暴れます、大人二人ぐらい簡単に跳ね飛ばされるから。オレは思い切って手綱を引いて顔を拭いてあげる。しょうがないなあ、という感じでキモサベが鼻面を下げる。胸がキュンとする。顔を拭いてあげたあとにおやつをあげる。小ぶりのにんじんを、まるのままあげる。おいしそう。厩舎の馬たちがワイもたべたいといななくけど、ゴルゴ先生が一喝。するとすごすごと首を引っ込める。ここではゴルゴ先生がリーダー。オレが誰かにおやつをあげるのはやっぱり不公平なのかなと気にもなる。

家に帰るとごっそり疲れている。少しだけ仮眠しようと布団に横になる。目覚めると十六時である。終わっている。ネットサーフィンで世界を同期する。ニュース、Twitter。みんな深刻な問題を抱えている。何とかしようとしているし、なんともならかなかったことも書いてある。事実だけの記事や意見だけの記事や、事実とも意見ともとれない記事が無限に並ぶ。いつも通り。オレには触感がない。

夕暮れになり風呂にはいる。座禅を組む。目を開けていると思考が止まらないので目をつむってみる。呼吸に意識を向けてみる。それでも思考がとびこんでくる。思考を止めるという思考は成功しているがオレの制御不能な思考が飛び込んでくる。キモサベやエクリプスのこと仕事のこと自分の生き方のことお金のこと好きな人のこと嫌いな人のこと政治のこと病気のこと。「何も考えないようにする」という思考は地獄の蓋をあけようなもの。より力の強い思いが先に先にわき上がって意識に登る。意識したくないものたちはどれもオレには不快。オレは風呂を上がる。オレは不快だと分かったことがよかったこととする。

風呂上がりに網戸から入り込んだ蛾と戦う。三センチ程度がバタバタと電灯にアタックしている。ホウキで一刀両断。光に向かって飛び込む虫をみるたびにつらくなる。それがなんなのかわからずともそこに飛び込むけど得るものは何もない。