kowさんは天ざる大好き

創作に絶望すると、世界が反転した日記

6月26日(金)

ずるをした次の日の朝は早い。罪悪感でちくちくするのがはっきりと分かる。あやはいない。スヌーズを一回だけで起きる。奇跡みたいだ。一日休む、金曜日なら今日も休んで、月曜日、六月は休んで、来月から、夏休みまでは休んでお盆明けに……一瞬考えてしまう。問題の先送りは自体をどんどん悪化させていく。
出社するために、人格を抜く。そのためには世界と同期する。radikoでニュースを聞く。ネットでもニューストレンドを追う。世界座標のオレの位置が補正され正しい座標に転送される。ジャイアントロボみたいなもので何者かに呼ばれれば参上する。たぶん操縦しているのはあやだ。いいか、ぶつけるなよ、ロボを絶対にぶつけるんじゃないぞ、ふりだからな。悪幼女あやは劇画タッチの表情でほくそ笑む。こんなときばっかり帰ってきてオレを不安にさせて喜んでいる。
出勤までにZwift用自転車のメンテナンス。ギアによってチェーンなりがひどくて要調整。ポジションが戦闘モードすぎて股間と腕、上半身がつらいので調整。まずはポジション調整。アップライドポジションをとる。外乗りのグラベルバイクと同等のポジション。最後の微妙な調整、サドルポジション、シートの高さ、これが一センチでもかわるとかなり印象がかわるから人間の感覚とは繊細だなとおもう。調整に一時間もかけてしまう。あとはロングライドしたときの部分的な疲労や全体的な走行感でしかない。調整がおわるともう勤務時間である。早い。

わあ、体調良くなりましたよ、てへぺろなどとわざとらしくポエムを投稿するとアイコン芸人たちが応答してくれる。考えてみると不思議だ。オレに誰も指示はなし。雑談しようともない。オレはチャンネルの未読を消化すると一人で宣言し誰が承認するわけでもなくやっている。オレは本当に出社しているのだろうか。この会社はオレが作り出したまぼろしじゃないか。とくにオレが自分がやりたいと思っていることを誰の承認もないのにやっていてそれを不安に思っていないのはちょっと異常である。周りの目や評価を気にしているオレがそんなに堂々とオレが正しいとおもったことやっているので、文句があればいってくれ、なんて昔のオレからしたらヤケクソみたいな働き方するわけがない。そんな不安からか、ほとんどのメッセージをいつもより多めに読み飛ばし、思ったことをポエムとして長文で投稿する。ポエムの投稿文の最後は、「異論は認める」「kow@suhito の感想です」「しらんけど」「とかなんとかいっちゃったり」「だってにんげんだもの」等々。ポエムは優しい。これに応答はない。個人の感想ですが、ポエムについての正しい所作は、期待のすりあわせだとおもっている。オレはこう思った、について共感するのか、違う意見なのかをしりたい、というのが書かれた文字の意図するところだ。それがないなら黙っときゃいいんだから。書くとそのチャットメッセージが「読まれた可能性」の世界で自己の世界を構築するのはいいけど現実世界の課題にとりくんでいる事業体のなかでそれをするのはやっぱりまずいでしょう? 個人の感想だけど。
休職前にオレが所属していたRMI チームはうまく機能しているようにみえた。すごくうれしい。RMI チームはユーザーが任意に提供するサードパーティーを含めた各種活動ログの収集をしアイソレーションタンクのパラメータ属性のもととなる分析サービスへ渡す。ユーザ自身がオプションとして入力する身体情報、趣味嗜好、病歴なども管理する。もともとオレをいれて4人のチームで瀧山、栞、浦野。オレと瀧山が男性、他が女性の男女比半々という業界では珍しい環境。瀧山、栞ともにベテラン勢、浦野はウチの会社では珍しい新卒からの五年目。オレが抜けたことで浦野がとれるタスクが増えて成長が加速していた。瀧山も栞もチームの健康状態を気にかけよりよい方法を模索している。チーム憲章、プロジェクト憲章が更新されているのに感銘をうける。オレは誰よりもはやく死にそうだから、オレが死んでもこまらない属人性の低いチームを作ろうとしたのは失敗ではなかった。なんかほっとする。あとはいつ飛び出してもいいだろう。
時短勤務でもまだ長く感じる。明日の予定を考える。RMI チームがうまく回っているしクリティカルなミッションをよいリズムでまわしている。オレの体力やブランクのことかんがえると、もうちょい自由にできる活動場所が助かる。オレはいまのところチームをはずれているとのことだし、今後の配属は笹野マネージャーあずかりである。とりあえずデバイスから要求・応答を担当しているデバイスロジックチームのスクラムに見学させてもらうことにする。仕様変更、機能のアップデートによって変更箇所が多くなりがちな箇所で通年人員不足の部署だ。個々の技術者は十分にスキルをもっているが、組織の体をなしていない。マネージメントへの興味関心がないので自分たちの問題に気づけていないし改善できていない。笹野マネージャーは気づいているけど、忙しすぎて黙っている。家庭があり共働きで子育てして、働いたからといって残業代がでない。オレは笹野マネージャーをまったく責める気はない。みんな知っているが見えてないので言わない。離職率や異動希望のデータが見えたときにはじめて議論になるだろう。データは大事だけど数字、こうしたいという数字のために動いて欲しい気もする。ベンチャーだし、反対があっても思いがあるプロダクトのほうがいい。
時短勤務定時退社。本当に何もしていないのに、頭のなかで一人議論しクタクタになってしまった。

ベランダで少しぼーっとする。ペダルをまわさないとなあ。夜ごはんどうしよう。お酒買いにいかないとなあ。最優先事項のお酒か。自己が部屋に固着してしまうまえに外にでかけたい。天符堂本舗にいって、お酒だけでも調達する。あえて徒歩でいく。テクテクテクテク。いつのまにか天符堂本舗についている。十五分たらず。紙パックの安白ワイン、紙パックの熱燗にしたらなんとなく飲めそうな日本酒。適当に生活雑貨など。家に帰る。
まだ六時すぎ。日が落ちてくる。あやが準備運動をはじめたようだ。うずうず。お酒が飲みたくなる。アル中いややなあ。いや、そうはさせない。まずは風呂だ。風呂で焦らしてやる。最近、風呂がとみに気持ちいい。お風呂で住民の方と会うのがいままで気が引けていたのだ。復職してからというもの、オレはきっちり働いて風呂に入っているのだ、と人の目が気にならなくなった。背中に「リモートワークで仕事してますがなにか?」というタトゥシールを張れればもっと堂々としていられるだろう。本当にオレは人にどう見られているかばっかと考えている自意識過剰なとんきち野郎である。あやもなにか言ったらいい。何もないのか。
風呂上がりのミルクバーうまし。ベランダでぼーっとたべる。
夜ご飯は熱燗に冷や奴と塩つくね団子。冷や奴好きは二ヶ月周期でやってくる。好きなものを毎日大量に食う、飽きる、しばらくするとまた食べたくなる。いまは朝食のシリアルがお休み期間です。朝はもっぱらヨーグルト。

時短勤務なのに時間がたりない。フルタイムになったら何を削るのか……決まっている。この日記を先に削らなければ。いったい、オレはこの日記に何時間かけているのだ。いいか、今日何があったか? クソみたいな仕事をして疲れたから酒飲んで一人で愚痴をいいました、ってこと。「ある種の空隙を深刻ぶった言葉で埋めておかなければ不安神経症」をどうにかしたほうがいい。がんの告知をされるのを予感したら、オレは医者のまえでずっと適当なことを言い続ける自身があるぞ。死生観については放送大学の講義がよかったとか、死の受け入れ段階とかホスピスの話とかずっとしてやるんだ。でも、それってタモリっぽい。タモリ寺山修司のモノマネが久しぶりにみたい。

薬を飲んで寝る。