kowさんは天ざる大好き

創作に絶望すると、世界が反転した日記

6月27日(土)

スヌーズにしからの自力での起床。復職後の初の土曜日。寝て過ごすのはあまりよくないと思い予定をいれた。タンブルウィードで馬の手入れの勉強だ。乗馬は乗る前と乗ったあとでお手入れがある。これからも継続的に乗馬をするのであれば、そこを学びましょうという提案である。
皿洗いをしてひげを剃り、歯を磨く。ベッドを綺麗にする。足の裏に埃がついてきになる。掃除機がないので、限界になったら拭き掃除をしている。しかもオレは足の裏汚染恐怖症である。ロボット掃除機がほしいが高すぎる。目視で気になった部分をお掃除シートで拭う。
出かける準備をする。今日はお手入れだけなので乗馬の服装はしなくていい。半袖短パンのラフな格好。自転車でタンブルウィードにむかう。梅雨時の田舎の田んぼ道。湿気は草刈り機の音と草の匂い。土曜日だというのにオレは二日酔いではない。これは生き続けようとする人間の瞬間を切り取ったものだ。ならば、それでよし。

タンブルウィードにつくと馬たちが馬場に放牧されている。名前はなんにもわからない。キモサベがいるようないないような気がする。でもいるのかな。オレは人も覚えるのが苦手。全体としておおまかに理解することしかできない。記憶の中の映像はすべて強度のぼかしがはいっている。さらに色はほとんどない。なので雰囲気しかわからない。それであったときのコンテキストによって誰かを引き出している。何度も合っていればぼかしはへるが完全にぼかしはなくならない。思い出して似顔絵を描いてくださいといわれてもなにもかけない。髪の毛の色、長さ、目の形、色、パーツの配置、思い出せない。オレの記憶の中ではそのぼんやりとした像が分解不可能な記号になっている。あやの顔が思い出せないが、でもそれはいきいきとそこにある。
タンブルウィードでコーヒーをいただきながら放牧されている馬をみる。好奇心の強い馬が二頭やってきてオレに興味をしめす。鼻面を近づけてきたので触っていいのかなあとおもって手を伸ばすと、いやいやする。二頭には優劣が決まっていて青毛の馬の方が優位なよう。芦毛のもう一頭は様子をうかがっている。餌がもらえないんだとわかったのか二頭とも去って行く。馬同士はどうやってコミュニケーションとっているのか気になる。しばらくするとまたもどってくる。飲んでいるコーヒーが気になるのかも知れない。今度は触れるかなとおもってゆっくり首を撫でてやる。まあ、さわってもええよ、という程度の感じにみえる。接待されてるなあ。芦毛のほうも触らせてくれる。そんなことをしているといつの間にかゴルゴ先生がきていて声をかけられる。はぅっ、と我に返ってあいさつをする。
爪の掃除、全身のブラッシング、鞍のセッティング方法を学ぶ。全身のブラッシングも手早くやったほうがいいとのこと。えええええ。それが楽しみでやっているのに。でも馬にしたらこれから一発がんばりましょうか、というふうに思ってしまうし、それが長いとやるきなくなっちゃう、というところだろうか。明日から復職だとおもったら、じつは違った、そんな失望感を思い起こしキモサベと共有した。

タンブルウィードから戻るとお昼。冷やし中華をたべる。最近おろそかになっていたのでうまい。冷やし中華はチャーハンとならんで、個人的なお昼の定番料理。お昼を食べたあとは眠くなる。でもこのままではまた体内時計がおかしくなる。思い切って午後の予定を作る。女縄市までのサイクリングおよび冷凍食品の買いだめはどうか。冷凍庫をみるがまだストックが多い。はまっている肉団子の冷凍パック、冷凍牛肉、冷凍ブロッコリーが少し、餃子、チャーハン、アイスなど。もうちょっと減らしたい。女縄市まででかけて冷食を仕入れるということは片道一時間程度は考えないといけない。ある程度まとめて購入することで保冷時間をのばさないともどってくるまえに全解凍されてしまう。この案は却下、今後冷食の消費を心がける。では、シュノーケリングとか逆に山にいってハイキングとか。よさそう。どっちがいいだろうか。ビュリダンのロバを思い出す。あかん、死んでまう。きちんと考える。砂狐峠方面にいくことがないので是非、行きたい。激坂、深い森、非観光地。一人になるならいまだ。
ゴール直前では最寄りの自販機まで四キロ、今回はボトルを二本用意する。ハイキング用にスニーカー。ハイキングコースとしっかり紹介されているトレッキングシューズは不要だろう。ベースからの山頂までも獲得標高百メートルほどだし。出発、どんどん緑が深くなっていく。ワクワクしてくる。勾配がきつくなる。山に入る。勾配は一〇%オーバー。最近、負荷のかけ方も成長してきた。ゆっくり回す。ただし、同じ角速度で。必然、トルクが必要になる、引き足の使い方が肝になる。踏み込んだあと、休まずに引き足をつかってペダルの回転速度を一定に保つ。この作業の繰り返し。勾配によって自分が一番楽だと感じる速度で回す。区間の短い勾配一四%は気合いでクリアして次で足を休める。
ベースにつくとスニーカーに履き替えて山をのぼる。ベースには車もないのでここから登った人は誰もいなそう。ハイキングコースと侮っていたが、草が生い茂っている。新型コロナウイルスで誰ものぼっていないのだろう。蜘蛛の巣だらけの草むらをぬけていく感じ。先日の雨で足許はちょっとゆるいが、ちょっと気をつけていれば問題ない。湿度が半端ない。汗がとまらない。ジャングルかよ。二十分ほどで尾根に出る。景色が開ける。湿度で煙っているが、良い景色。この景色を独占できるのは贅沢だ。風も気持ちいい。ベンチですこし休憩し、尾根づたいのルートで伊灰山山頂を目指す。看板のコースタイムでは十分とかいてある。周りに木々があって山頂方面は見渡せない。しかも道の先は背の高い草で覆われている。本当に十分かなと思う。オレはザ・観光地登山しかしてないのでそのあたりの勘所はわからない。とりあえず進んでみる。尾根は谷筋にむかって下るそして分岐点。縦走ルートと伊灰山山頂ルート。伊灰山山頂ルートを選んだつもりだがGPSはあらぬ方向に進んでいる。いったん、戻る。縦走ルートを進むがそちらは正しい位置を示す。分岐点に戻る。YAMAP を開く。二叉になっているが、その中央にルートがある。オレの目の前にあるのは木々。人が通ったようなあとはあるがそこから先は木々に遮られているし道になっているとは思えない。しかも急斜面。周りを見渡すが誰もいない。むしろ、ここまで誰ともすれ違っていない。あやに相談する。楽しくなってきたね、と微笑む。オレは同感だという。地面は粘土質で滑りやすい。道はなくただの斜面をクライムする形。最初は道があるがすぐに消える。急勾配で直線で登るルートを目視で観察する。確かに十メールほどいけば上に道のようなものがありそう。朽ち木、低木、草が配置されている。オレはここで餓死しない。直線ルートを選ぶ。目に見える位置に道があること、不安に対してその道が見え続けることは安心材料だった。いま、こうして内省してもそれが正しいとは思わないが、不安というのは人の判断を鈍らせる。スニーカーを履いてきたことを後悔する。足場をかるく掘って進むがそれでも踏み外す。少しずつすすむ。十メートルがぜんぜんすすまない。低木を押し倒して進む。やっと道にでる。もとはどこに道があったのか。
伊灰山山頂に到着する。風が涼しい。碧海が見渡せる。海と山がみえてかっこいい景色。山頂のベンチにすわりオレはおやつにもってきたバナナを食べる。うほほ。うまし。コーヒーとクッキーでももってくればよかったなあ。もうちょっと涼しくなったらカップラもいいな。バーナーと水あれば、コーヒーもドリップできるしなあ。読書もできるしなあ。
バナナを食べ終わって下山する。途中に道なき道を通るがそこを抜ければ難所はない。ベースに戻って靴を履き替え、攻めのダウンヒル下山する。舗装路を下りながら意識が巻き戻る。後部座席のあやに聞く。オレが山の雑木林で朽ち果てていくのが何度か経験したことあるような気がするんだけど。あやは聞こえないのか、聞こえないふりをしたのか、何も答えない。

家に戻ると風呂にはいり汗を流す。ストレッチをして身体をほぐす。外気の湿度が高いから風呂はサウナ状態。とても長居できそうにない。出る前に冷水で身体を冷やして風呂をでる。
温まった身体をベランダでクールダウンしながら世界と同期する。土曜日は報道もすくないとみて世界は進んでいない。オレが山に行っている間にも世界は止まっていた。世界はオレを待ってくれている。あやは鼻をほじっている。おい、鼻ほじってる場合かよ。あやが今日はじめて言葉にする。今日、てっぺんから落ちたの覚えてる? あれと同じ。意味が分からないが急に夢の内容を思い出す。オレの通っている中学校は超高層ビルになっている。オレは部室のある最上階に向かうが、エレベーターは緊急停止する。階段でのぼる。その途中で地震がおこりビルが傾く。オレは屋上にでる。ビルの傾きは増す。倒壊を予兆している。オレは屋上の窓掃除ようのクレーンにぶらさがり、振り子のようにしてとなりのビルに飛び移ろうとする。ビルの傾きが増す、そこで夢は終わる、終わったはず。オレは落ちてない。あやは何も言わない。そっぽを向く。
オレは 岳 -ガク- のことをなんとなく思い出す。関係ない話なのに。パスタを茹でてミートスパゲッティを山盛り食べる。うまい。
一息ついて執筆作業をする。執筆はなんなのかと思い始めて数日、せっかくなので続けている。辞めて良い時期があるのかもしれない。今日、自己が一度でも起動したのか? ならば自己は正常にシャットダウンされたのか?