kowさんは天ざる大好き

創作に絶望すると、世界が反転した日記

7月2日(木)

復職お試しの週四勤務のお休み。ついにエアコン業者がくる。朝一での来訪とのことで仕事と同じ時間におきる。リズムを崩さない良きイベントである。例によって朝はアラームとの格闘。なんとか起き上がる。身体の倦怠感も抜けてきた。いよいよ寛解かあ。朝の儀式を済ませると、時をおかずにチャイムがなる。予定時間、定刻での到着。定刻での到着はオレの世界をいじらなくて済むので助かる。予定時間に遅れてこられるとパニックになってしまい、所作がわからず自分自身を切り刻みたくなる。遅れるのはそこまで悪だとはおもわないし、遅れる事情もあるだろう。それを責めていない。むしろオレがそのぐらいの無責任、ゆとりがあってほしいぐらい。ただオレのパニックだけが困る。
今回はベテランで日焼けした精悍な男性が一人。やはり職人らしいと思ってしまう。顧客への対応もこなれた感じでバランス型の職人さんに映った。作業をしてもらう間、オレは離れたところで執筆作業をする。執筆が進まない。作業をしていて気が散るという単純な話ではない。この部屋が安全地帯ではない状態ではない。そのなかで日記が書けない。自己が立ち上がっている、ということなのだろうか。多分、カフェで執筆作業をしようとしてもオレはできないだろう。安全地帯ではないから。「安全地帯ではないから」は何を意味するかはオレにもわからない。立ち上がった自己がまなざしに対して過剰適応してしまうというそれっぽい言葉で濁すこともできるかもしれないが、オレの直感はそれだけではないと思っている。オレは数メートルで人の気配を考えながら真っ白な画面を睨みキーボードを打てないまま考え込む。人見知りのあやもひっこんだまま出てこない。食木崎先生がアドバイスする。あまり考えないほうがよいでしょう。オレはコーヒーを淹れる。それを飲みながら定型にそって書き出してみる。<目覚めるとアラームが鳴っている> それは良い合図となる。ある世界の扉が開き目視、再体験する。それを記述する。職人さんに名前はなく、まるで匿名で誰でもない。職人さんから声をかけられる。建物にもともとついている排水管ですが、規格外のもので劣化も進んでおり期待通り排水するか分かりません。こちらではどうしようもできませんので、水漏れが起こるようであればアパートの管理会社に連絡して対処してください。自己癒着テープで補強しましたがうまくいくかどうかわかりません。エアコンの仕組みすらわからないがオレはうなずく。誰にも期待しない。トラブルがあればオレがどうにかすればよい。トラブルの兆候だけを確認しておけばよい。トラブルが起こるとどうなるのですか、と質問する。具体的にはどこがどにょうになるのか。職人さんは具体的に箇所をしめしここから水が漏れてきますと説明する。理解した。あなたの職域のなかできることをやっていただいた。何の不満もない。撤収際に興味本位で質問する。なぜ、規格外の排水路を付けられたと思いますか。もともと何も考えてないんじゃないでしょうか、長年やっていますが、はじめてみました。ひどいです。オレは理解できないことを理解できないままにする練習を求められた。ありがとう。練習してみます。オレはお礼をいって職人さんを見送る。エアコンの試運転をして件の排水路が機能していることを確認する。こんな古いアパートに埋設されている塩ビ管の排水口、もう耐用年数こえてるだろ。オレは取り付けてもらったエアコンの写真をとる。原状回復でトラブルにならないためには大事だ。遠くからみてみると違和感を感じる。エアコン本体の水平がとれてなくない? 計測してみると左端と右端でずれている。別に機能に影響ないんだろうけど、水平出ししてよ。ひどいよじゃないよ、もう。ああ、気づかなければよかった。これからずっとエアコンは水平じゃないって思いながら過ごすことになるじゃないか。忘れたい。
エアコン取り付け作業のためにデスクを移動した。せっかくなので執務デスクのレイアウト変更をする。執筆用の縦置きディスプレイをベランダ側におく。ベランダの風景がのどかなので、深呼吸ぐらいのほんの短い休止時間に首を動かすだけで視線を休められる。日光が視界にはいる時間も増えるので体内時計にも良い影響があることを期待する。モニターアームを付け替えてディスプレイを配置する。デジタル水平器でディスプレイの水平を維持みたいな調節する。水平が正しいのではなく、自分が見やすいと思ったらそれでいい。常に正対するいちに目を持っていくことはできないのだから。オレはバカヤロウ。
ちょうどおひる。何をたべようか。そういえば朝のお薬をのんでない。冷蔵庫には食パンだけ。冷凍食品はわんさかある。食パンを消費しておこう。冷凍ブロッコリーをルクエで解凍し、トーストを三枚焼く。即席のチーズコーンポタージュスープ。予定がなにもないブランチは心が安まる。あとはネットニュースなどを眺めながら世界と同期する。食後、眠くなる。ここで寝たら、復職を継続できない。風呂にはいる。清掃とお湯の入れ替えが入ったらしい。強い塩素の匂いがする。安全安心の臭い。足裏汚染恐怖症のオレでも安心して共同浴場に踏み出せる。足裏汚染恐怖症は勝手にオレがCoccoの悪影響を受けたものであることは絶対に誰にも言わないようにしている秘密だ。治るなら治って欲しいものだ。風呂上がりにホームランバーを食べる。うまい。うまいが、オレが生きていてはいけないような気持ちに少しなる。罪と罰を読んだところによると、オレには罰が必要な気がする。ベランダから飛び出すのは罰ではなく罪だ。オレはできることにする。のんびりポタリング。近くの公園で水道をかりる。もっていたタオルで自転車の車体を拭いてやる。海が近いので風、雨水の塩分をバカにできない。クロモリボディを拭いてやる。あんまりクリーニングしてやっていなかったので申し訳ない気持ちになる。カセットとチェーンもクリーニングしてやらないとな。のんびりとポタリングを続ける。百メートル超の低山をゆるゆる登る。荒れた路面、洗い越し、渓流、木々、虫の声、鳥の声、坂の上から吹き下ろす風。完璧なコンディションの林道。ローギアにいれてゆっくりゆっくり心臓に負荷をかけて苦痛と外界のコントラストを楽しむ。苦痛になればなるほど世界は灰色になる。心拍数がさがると世界は作り物のように鮮やかさを取り戻す。負荷をかけたり減らしたり世界のグラデーションを楽しむ。頂上でペダルをとめて音を聞く。オレはもっと高いところにいきたい。
その足でタンブルウィードにいく。キモサベの目をみながらコーヒーを飲みたい。女将さんが対応してくれる。いつも陽気な女将さんには助けてもらえる。あいているのでレッスンも勧められる。それはそうだけど。断れない、というより結局、乗ってみたい誘惑に負ける。今日は厩舎員のお姉さんも一緒にのる。お姉さんにどのぐらい乗ってるんですかと聞くと、わからないですけど千鞍以上は。小さい時から乗っていて乗馬歴は十年以上とのこと。あわわあわわ。ゴルゴ先生からはいつもビシバシ指示が飛んでいるので学ぶことが多い段階かとおもったら上級者である。これからは姉さんではなく姐さんとよばなくては、あわわあわわ。乗る前にキモサベのお手入れ。お前、泥だらけじゃねーか。ゴルゴ先生がみてるよ、みてーるよー、ぎゃー、こえー。ゴルゴ先生が椅子に座ってタバコをくゆらせながらオレのお手入れが指導したとおりかどうかを見ている。こえー。自然と丁寧になってしまい、時間のかかることかかること。心臓ばくばく。キモサベは時間がかかるから退屈でオレに尻尾攻撃してくる。でも尻尾攻撃は楽しい。鞍をつけて頭絡をつけかえる。今日も馬の上で立つ練習。鐙に力をかけるためには重心を落とさないといけない。それができないので上体を反らしてバランスを取ろうとする。結果、歩行の振動に対応できない。悪循環。重心を落とす、丹田あたりでコントロール、かかとを落とす。むわーうまくいかない。キモサベはオレしーらない、って感じで走っているが気持ちよさそうではない。むぐぐ。終盤にちょっとだけ感覚をつかんでくるがおおきな進歩はなし。ちなみに姐さんはゴルゴ先生から漫然と乗っててもダメって指導が飛んでいました。乗馬後はお手入れ。身体をふく。蹄のお手入れ。前肢、後肢。ベテランなので自然を脚を上げてくれる。脚を洗ってあげる。ゴルゴ先生がみてるよ。だるまさんより怖い。丹念にやった結果、これを早くできるようになりましょう、ということだった。ゴシゴシした身体的汗と超強烈な視線ダメージの汗で身体はぐっしょりへとへと。キモサベが慰めてくれる。まあわかるよゴルゴ先生は強い。せやろな、お前んとこのボスやしな。

家にかえると、風呂にはいってアイスをたべてぼーっとする。一ヶ月分の視線を浴びた。今日はゆっくりしたい。熱燗と松前漬けで気分をほぐす。安心してテンションが上がってくる。自己がおしまいになると今度は酒量がコントロールできない。
歯を食いしばり薬を飲んで寝る。