kowさんは天ざる大好き

創作に絶望すると、世界が反転した日記

8月17日(月)

暑い、残業、暑い、残業などと言い訳を続けて通院を延期していたら先週の木曜日に抗うつ剤がきれた。眠剤は残っていたのでまあいいかと思っていた。土曜日、日曜日は体調が鬼のように悪くなる。気分ではなくて内科的な異常。吐き気、頭痛、めまい、全身がしびれるようような感覚が断続的に続く。布団に横になるしかない。これ、薬の離脱症状かもしれない。前にも似たような症状になったことがある。寝まくったら治るかと思ったが今日もまだだめだった。

体調、激悪のなか、仕事を開始する。オレたちの雑用チームはアイデンティティがない。だからこそアイデンティティをきちんと作らなければならない。チームビルディングが必要。そしてインセプションデッキが必要なのだ。雑草だから、きちんと名前を付けてやる必要がある。セプトアギンタのチームメンバーと話す。マーケティング部門のメンバーとも話す。社内SEチームのメンバーともはなす。CRM チームとも話す。インフラチームメンバーとも話す。基幹システムメンバーとも話す。各部署のメンバーに現在のプロダクトについてインタビューをする。各部署ごとに思っていることは全く異なっている。部署のミッションが違うから見えているものが違う、という程度ならよいのだが、そのレベルではない。まるで万華鏡のようにプロダクトは立つ場所によってまったく違って見えている。各部署に聞いて回ることで三角測量の要領で本当のプロダクトの位置を割り出そうとしていたのだけど、不安になってくる。でも、それは事実だ。その差異の中にプロダクトの真価も埋もれているかもしれない。かなり良質な生データを手に入れたし、その差異から自分が立っている場所も理解することができた。オレたちはこの場所からチームをはじめて未来のプロダクトがあるべきところにあるように、どの部署のメンバーもそれを見られるようにする必要がある。状況は悪いが前を向く。
インタビューからの情報をインプットにインセプションデッキの準備をする。すると笹野マネージャーからダイレクトチャットでお叱りのメッセージがとどく。部署を越境したインタビューは各人の時間を取るのでおやめください、というメッセージである。パイナップルで後頭部をいきなり殴れたような衝撃をうける。言葉ではなく、そのチャットのメッセージが強烈すぎて手が震えた。最近お叱りを受けることが少なかったもあるが、「なにをいっているかわからない」のである。インタビューイのみなさんはけっこうこういう機会がないので新鮮ですと概ね好評だったが、あれは社交辞令で半ギレで嫌々インタビューを受けてくれていたのかもしれない。いつの間にかオレは人を信用して、またどうでもいいことで裏切られてしまったのだろうか。拒否できないような空気でグイグイインタビューの時間をとって、オープンにしないほうがよい情報までオレは公開議事録で保存してしまったのかもしれない。お叱りを受けた恐怖、悲しみが時間をおいて怒りに変わる。心の中で笹野マネージャーに八つ当たりする。どのレイヤーの上層部が咎めたのかはわからないが、少しは反論してくれなかったのだろうか。オレがインタビューをしていることは知っていたし、それを止めなかったのは黙認していたのではないのか。チームビルディングのためという目的も理解してくれていたはずである。むしろ、上層のどっかの誰が参加しているかもわからない会議で欠席裁判のように裁かれるとはどういうことだろうか。文句があるなら、オレに直接いえばいいじゃないか。インタビューイも上にあげるまえに、私に直接いってほしい。三十分の自分の時間が奪われたことがそれほどに苦痛だったならオレにいってくれ。もちろん他人のことはいえない。オレも周りがみえていなかったもしれない。多かれ少なかれ多少はアドレナリンジャンキーになってしまうことはある。あなたが、直接、オレに注意してくれ。社内政治案件にはしないでくれ。オレに対する注意メッセージも、なんでダイレクトチャットにおくるのだ。全開発者がみえるチャンネルで叱るのが筋だろう。かくかくしかじかの問題があり、業務が阻害される要因になったので部署を越えたインタビューはしかるべきマネージャーを通して承認をえてから行うべきと、きちんと業務フローを規定すればよろしい。再発防止策は必要だし、きちんとそのルールのWHYを説明していただけるならそれでよい。私、ぷっつんしちゃいました。あやがまあまあとなだめてくる。怒りはいつかおさまるし、するとまた叱られた恐怖と悲しみが戻ってくる、見捨てられてしまった恐怖でパニックになっているんだよ、その怒りは口先だけで、本当は怖いだけ、落ち着いた方が良い。オレはため息をつく。せっかく面白い展開になったのに、あやは物事が元に戻らなくなる限界点をしっているかのように、ちょうどいいところで止めにはいる。つまらない。世界なんてなくなればいいのに。定時もなにもあったものではない。退勤する。

気分転換せざるをえない。自転車で海を見に行く。夕陽が水蒸気で揺らいでみえる。湿度が高すぎる。吐き気がすこし和らぐ。ぷっつんした頭がどうかしている。オレは変わってしまった。道交法ぎりぎりをせめた自転車走行をしている。警察官の職務質問にはできるだけ抵抗し、応援が呼ばれるぎりぎりで、バッグの中身をすべてさらけ出す。警察官はなぜ渋ったのかと疑う。ここで警察官が引かないパターンがある。それは引くに引けない状況にオレが追い込んだからだ。相手にもプライドがある。意味がないプライドだ。バカにされたことにたいする権力の行使。信頼関係のない間からでの権力の行使は破滅しかない。だれも得をしない。田舎道特有の裏道にはいる。信号もないし、優先道路を進む分には信号も一時停止線もない。世界が構成が変わっている。あの言葉、数文字で世界がこうも変わる。人だけでなくすべての事物がオレにむけて挑戦的だ。アスファルトのギャップ、剥離、震動、対向車、すべてがオレを攻撃するために向かってきている。オレは怒りを抑える。歯を食いしばる。ペダルを踏む。法定速度ギリギリ、制限速度ギリギリの無茶で生活道路を進む。身体中から汗が噴き出してくる。額から汗がしたたり落ちる。目に入る。メガネを汚して視界がにじむ。頬から落ちた汗がフレームに当たる。地面に落ちる。オレは制止していて、世界が謎の速度で進んでいる。どれだけペダルをまわしてもオレは制止している。世界だけがオレを追い越していく。タイヤが路面をなめる音。ギアチェンジディレイラーの音。フリーハブのカチカチという音。オレの喘ぎ。汗がおちてアスファルトにぴたんと落ちる音。機械仕掛けの夕陽がゴゴゴゴと重厚な音をたてて舞台から退場しつつある。オレはドロップハンドルの下を持つ。大きく生きをすう。オレは死ねばいい。誰かから押しつけられた怒りをまるで自分の怒りのように感じ、怒りの裏にあるオレを迫害している。怒りはオレの寿命を吸い取りながら極一方的な正義の砦を自己組織化させ、対話を拒否するための持久戦の構えをとる。悲しみを感じたオレはペダルを踏む。オレを殴るためじゃない。その沈黙の要塞を粉砕したい。二人乗りのあやが髪をおさえながら言う。あんたはペダルを回すしかない、誰にも復讐できない。あるいは自分自身に復讐するのとすれば、それはただの自傷でしかない。What do you think? オレは勾配九パーセントの坂を登っている。歯を食いしばる。息を吐き出す。口からはヨダレが流れ出るが気にならない。オレは獣だ。見えないヒルクライムに無謀な挑戦をする。百パーセントで踏み続ける。心拍が悲鳴をあげる。気管支がゼイゼイと異様な音を立てる。汗が滝のように流れる。足が死んだ。でも足はオレの持ち物だ。足が死んだ、というフィードバックは足の脳が決めたことだ。オレの脳はそれを拒否する。何故か涙が出てくる。感情失禁? いやどんでもない、過酷な活動に目からも汗がでてくる。ハンドルを強く握る。バーテープは最後の友達だ。等高線がプリントされたオレの自転車のバーテープは強く握れば握るほど勇気を与えてくる。上半身でダンシングを補助し、足は踏み込むことに注力する。ただ一定のリズムで、トルクが変わらないように、一定の rpm で。肺や心臓や筋肉がこれほどお荷物であったとは。彼らはオレという人間をよりよくするという目標に適していないメンバーである。オレは失望する。オレはトップダウンの命令を送る。お前等の限界はわからんでもない。でもオレたちの限界であってはならない。ウィトゲンシュタインだったらお前等は即刻抹殺されているぞ。オレは指揮系統が怪しくなってくる。脱水、薬物の離脱症状、吐き気、熱気、湿度、デッドゾーンの心拍数。死ねない。死なない。オレは死なない。死ねない。人は簡単に死なない。ゲロをはいたところで死なない。後部のキャリアに女子高生座りして風を感じているあやがいう。お前の生は安っぽい。議論ではなく、現実によって議論を中断することを正としている。議論に制限をつくっている、それはよい。でもその動機はひどい。死にたくないから。誰もがそれを知っている。でも人たちは優しいからそれを言わない。あなたはそれを薄々感じながらも拒否している。なぜならば、死にたくないからだ。こんなことを言われると、尊厳を木津付けられたとか、もっと詳細な個人的な理由があるのだという。でもね、死という言葉を最初にだしたあなたはどうやってもそこに失敗してしまったのだ。アナタは企投という言葉で、観察されているあなと、客観視あなたを分離しようと試みるかも知れない。現象学的な時間を頭で理解することに努力しながらあなたは賞賛しつつ、本心で拒否する。その拒否は醜く、その場しのぎで、陳腐である。この問題の根本はあなたはあなたしか知らない。あなたはアナタ以外を知っているといっている。でもそれはアナタと世界のこと。つまり拡張したアナタ。アナタの世界には純粋な意味でリビドーが不足している。その言及が不満であれば、リビドーは可換である。アナタは、定性である評価軸に逃げ、相対化、差異、差延をあえて誤用することで、この世界があなたの為に、アナタのためだけに作られて世界であるということで満足しようとしている。いじめっ子たちはオレをそんなこというなら死んでみて証拠をみせろという。オレはいじめっ子に謝る。死にたくない。あや、おれは死にたくないんだ。オレは弱い人間だから。
汗をだらだらをしたたらせながら、岬に到着する。息と整えながら夕陽を見る。沈め、沈め、沈んでしまえ。世界を闇で覆ってしまえば良い。二度と戻ってくるな。
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家に帰り、風呂に入る。頭が怒りで悶々としている。軽くストレッチして座禅を組む。今日は目を開ける。ただし焦点をあわせない。すこしうつむき何を見るわけでもなく焦点をぼかしながら何かを見る。湯船の下のタイルはフリースタイルの文様になっている。その模様は地縛霊、ゾンビのような顔にみえる。どうしてこうしてこっちにこないのかと、オレにいう。あやに言ってやったらいいというが、あやはいなくなっている。ここは男子大浴場であった。一旦瞬きをしてイメージを破棄する。こんどは別の怨霊がタイルに表れている。頬がごっそりこけしゃれこうべのようだ。薄膜の皮膚がしゃれこうべを覆っているようにみえる。早くこっち戻って来いよ。なんだよ、お前は自殺に成功した @lice のつもりか? それとも別の自殺が成功していそうなオレの友達の総代のつもりか? その脅しはよかった。でもお前たちは偽物だ。なぜなら、エロさがない。あとのとき、死んでも良いと言っていた友達たちは性別に捕らわれることなく全員が全員エロかった。それらの皮付きのしゃれこうべの幻像は、霊界の特殊詐欺集団のなれの果てであった。
いつの間にかオレの中から怒りが消えている。オレの怒りがどれほど小さな話か、という冷静な地点にたどり着いた。オレがやっていたことが誤解された、という自身はある。でもそれでいい。その誤解は当然だ。なぜなら、あなた方が想像ができないようなやり方でオレはこの会社を変えられるのではないかという仮説をたてているから。この仮説はあなた方に共有していない。だからオレのやっていることは、不合理であるし、非生産的であるし、組織的にコミュニケーションの混乱をおこさえるものだと認識した。完璧に正しい。オレはあなた方が仮説の要素、モブ要素になったことで満足する。あなたがたは正しく反論したいというなら、マネージャーを介さず、オレと話すことをオススメする。でもあなた方には無理だろう。上意下達は正しく行われる、ということに疑問を持ってすらいないだろう。あなた方は社員の何を人質に取っているつもりか? 現実なんて北風と太陽を極端ににカリカチュアライズされた世界である。「やるな」といえば部下が従う世界感をもっているとすればあなた方は幸せだ。無意味ではないが、効率が悪いから止めよう。決裁! あなた方は何が分かっているのか? リーンをどれほどど理解しているのか? 制約理論をどこまで理解しているのか? 非生産的、非効率、その言葉はそのままあなた方に返す。それすらあまり意味がないことを知っている。あなた方はそれの効果しか見ず、原理原則を理解しようとしないだろう。だから、オレは薄々知っている。アナタがたに純粋理性批判から始めなければならないことを。あなた方はカントを知って、形而上的な「ユーザー」概念を見る。形而上的な概念を想像できるようになって、形而下のユーザーについて自由に想像ができるようにする。さらに、両者も究極的には妄想のだという不安感、リスクを用いて進むべき道を選択するというチャレンジができるようになる。
オレは座禅を組み、焦点をぼかす。目はつぶるくらないなら焦点をぼかして見ておくほうがよい。呼気、湯船のタイル、自分の鼻の頭、湯船の波、すべてが遠くなっていく。統一が剥がれつつ。この先になにがあるのだろう。バラバラになった自分の外に何があるのか。バラバラじゃない自分を統合していた第十一の力とはなんだったのか。

風呂を出る。夕食は冷食ご飯を食べる。冷凍チャーハンと卵焼き、インスタント味噌汁。吐き気。吐きそう。離脱症状がここまでつらいとは思っていなかった。味噌汁が死ぬほどうまい。滝のように汗をながしたのだ、塩分がうますぎる。昨今の冷凍チャーハンも完璧であるが、塩と黒こしょうをふる。アスリート飯である。

執筆作業をして寝る。眠剤も残り僅かである。薬が切れたら GAME OVER になって十二歳あたりからゲームは再開できないものか。人生とは他者の視点において負け犬として惨めに死んでいくことでしかないが、オレはまだ負けていない。死ねない。