9月23日(水)

目覚ましが鳴る。ゼロフレームで世界が切り替わる。オレは一フレ前に本当に寝ていたのだろうか? まるで映像の編集のような目覚めだ。週明け、仕事ができる。やることができた。

仕事を始める。一人になりたい。Slack のチャンネルを片っ端からミュートにしていく。もしかしたら一喝でミュートするプログラムを書いた方が早かったかもしれない。オレが思っていることを最も正しく伝える方法は対話によるコミュニケーションだ。オレはオレの思っていることを誰かに伝えたい。文字は素晴らしい。それは書くという行為があったという前提を理解し、いくつもの間違った世界を見せてくれるからだ。小説において文字はとても有効だ。幻想的な物語はテクストに限る。赤毛のアンが映像によりある程度固定化されてしまうなら、それは毎年毎年新作を出してもいいかもしれない。とにもかくにも、仕事上必要なコミュニケーションに幻想性は不要だ。逆に言えば、文字は不適格ですらある。Linux カーネルメーリングリストで議論されて開発、保守されているらしいが、メンバーの気が触れないのはどうかしている。課題、解決方法、解決方法の結果生み出すべき成果物、これを自然言語で正しく伝えることはできない。自然言語は不確実でリアルタイムのやりとりでなければ意味がない。
これでテキストによる非同期メッセージはこなくなった。オレは自分のライブ配信URLを公開する。ただもくもくと作業をしている、もし気になるのならばそこに来てくれれば良い。結果、退勤まで誰も来ない。オレは自分では解決できない問題を Slack でいくつか助けを求めたがソースを読めと言われた。誰が悪いわけでもない。もはやレガシー化したものを教えられる人が居ない。今やっている表示項目を変えるという些細なプロダクト改善にリバースエンジニアリングを含めたコード解析、コードリーディングをしてやっと解決した。Easy にしようとして SImple でなくなってしまったレガシーの例。Easy を目的につくられたライブラリは毎日更新されるぐらいでなければ、と思う。典型的な開発者のユースケースに答えてくれるファサードを作ろう。大いにけっこう。Easy の仕組みを理解してそれを越えたことをしようとしたときは Easy の仕組みを理解いして改変する必要がある。地獄である。欲しかったのはファサードですか? ビルダーですか?
先週に丹波さんへお願いしたプルリクエストをレビューの提案がある。単一責任の指摘。イラッとする。いや、正しいから。オレたちは本当にいま単一責任に注目すべきだろうか? 汚染されているコードがどんどんとマージされてくるのに、いまさら、このプロダクトに価値を与えないところで単一責任!? オレは散々愚痴をいうが、所詮負け戦だ。レガシーソフトウェアを改善するには新しい負債を作り込まないことは最低条件だ。再度レビューを投げる。
フラれまくる、細かい改修案件を地力で進める。くだらない。秒で終わるものばかり。実際には数時間かかる。改修前のコードを想像していないから、どこまでリファクタしていいものかも難しい。
チャットがほとんどことがすばらしい平穏を迎え入れた。仕事はオレが一人でやればいい。ほんとうに重要なことだけメンションでやりとりすれば良い。チャットはなんだったの。とりあえず知っておいた方がいいかな、はしっておく必要などまったくなかたったのだ。何よりも心にゆとりがうまれる。よし。

仕事が終わるとサイクリングにでかける。仕事を抜く。明日は雨らしいので、今日が回せるチャンスだ。羊鳥ヶ岳逆周ルート。ドライブトレインの調子が悪くなってきている。シフトチェンジがいまいちテンポが遅れるようになってきた。3000㎞はしったらショップで点検してもらってくださいといったが、そろそろいった方がよさそう。もよりのスポーツ自転車ショップまで100㎞ぐらいあるので往路はいいとしては帰りは電車だな。坂道を登る。最高で10%程度のほどほどの坂道。海岸線沿いだとアップダウンが走破するには思いのほか体力がいる。万座のように単調登りだとペースも掴みやすいんだけど。
坂道を登る。夏も終わり。蝉がメスを求めて最後に鳴いている。弱ってるんじゃない。どうせもう死ぬのだ。全身全霊を込めて腹から鳴け。いけるさ。額からこぼれた汗が目に入ってしみる。頬伝って顎から汗がしたたる。苦しくて気持ちいい。登坂の中盤で心拍一八〇、呼吸は乱れている。ペースを落とすしかないのに、回し続ける。きっとこのまま回せば死ねる気がする。気管支がゼイゼイする。呼吸が荒くなるだけで酸素を有意義に取り込めなくなる。思いっきり吐き出す。思いっきり吸う。足を止めない。一定の角速度を維持せよ。耳鳴りがしてくる。手が震えてくる。太もも、ふくらはぎ、膝の折り曲げに異常蛾生じ始める。重だるい。腕は力が入らない。上半身を支えられない。ハンドルバーに寄りかかる。つらいときこそフォームを意識せよ。上半身を挙げて肺に空気が取り込まれるように、ペダルのリズムを崩さないように。まず、ケイデンスが破綻した。頂上の見えない上り坂をみて心が折れる。口の中に血の味が広がる。激しい呼吸をしすぎるとこの味がする。それはいいのだけど、オレにとってはオーバーワークのサインになっている。定期的に負荷をかけているならまだしも、週数回のエクササイズでこの負荷のかけ方は無謀だ。頭の中でそう合理化する。足をつく。ハンドルに肘をついてぜいぜいと空気を貪る。汗が次から次へとしたたりアスファルトにシミを作る。息も絶え絶えで岬に到達する。夕日を眺めながら小休止。オレが鳥だったらこの海原の上に飛び出して羽を広げているだろう。実際、トンビが気持ちよさそうに飛んでいる。

家に戻ると風呂に入る。二名の先客がいるか、あいさつをするだけで絶対に目を合わせない。今日、オレは在宅勤務のWEB会議サービスでも目を合わせなかった、いまになって目を合わせるわけにはいかない。目を合わせないのは失礼と聞いたことがある。逆に言おう、目を合わせるのは信頼できる人だけだ。なんの見返りもないのに、しらないおっさんとセックスしますか? オレにとってはその問いににている。でも見なければセックスしていい対象かどうかの判断基準すら手に入らない、というお叱りは十分にわかる。話をシンプルにしよう。オレはいまおっさんとセックスをできる余裕がない。イチも二もなく視線は避ける。
風呂を上がって晩酌。冷凍からあげに死ぬほど大根おろしをかけておろし唐揚げ。ポン酢で頂く。冷や奴は削り節とショウガ、めんつゆでいただく。お酒は濃いめのハイボール。血液検査の良かったとはいえ破綻的な生活に近い。さっさと飲んで寝るに限る。ロックのウィスキーで眠剤をあおる。医者が絶対に止めるやつだ。用法として百パーセント間違っている。そういえば、むかし、ハルシオンとお酒の組み合わせで迷妄したことがあったけっけな。鬼束ちひろもいっているように、効かない薬ばかりがちらばっている。

クスリは効いている、きっと。寝る。