kowさんは天ざる大好き

創作に絶望すると、世界が反転した日記

5月21日(木)

引越によりかかっていた病院も変えることになった。休職にあたり5月まで静養すべしとの診断書は書いてもらっているが6月から復職するか、できるのかの判断もしてもらわないといけない。新型コロナウイルスのことも考えて、不急の診察は避けたいが手続き上必要、自身が保菌者である前提の防御をして出かける。
引越前に書いてもらった紹介状は分厚く中をあけて読んでみたい気もした。良く悪くも関係性を気づかない薬物療法だからこそ、所見が気になった。日本に蔓延っている記述精神病理的薬物療法はAIにでもやらせればいいし、もはや診察は医療費のムダですらある。
新しくかかる病院は隣の地区にある名破まごころ癲狂院でネットで見る限り評判も良さそうである。自転車でいくにはふたつほど小さな山をこえることになる。自転車で四五十分というところ。田舎なので信号はふたつほどか。自転車散歩と考えればちょうどいい位置といっていいのではないか。

病院に到着すると受付が渋滞している。待合室には間隔を開けて待っている患者で8割の席は埋まっている。なんとか広いスペースを見つけて隅っこに小さくなって待ち続ける。一人の患者が長いこと受付の前で何やら書類を書いていてそれを見守る。一旦、外に出ておこうかなと焦れているとちょうど受付があく。紹介状と保険証を出して初診であることを伝える。受付は検温をお願いしますと体温計を渡す。異常に低い体温。汗が引いていなかったので、表面上の体温が低下していたのだろう。受付は何も言わずに体温計を受け取る。待合室でまっているようにと指示されるが、事情をつたえて外で待たせてもらうことに。外で小松左京の本を読みながら待つ。天気もよくビタミンDを生成するのにも最適だ。一時間ほど待つと、受付の方がでてくる。 kowasuhito さん、そろそろ診察になりますので、中でお待ちください、とのこと。どうぞどうぞ、と先を促されるがオレはソーシャルディスタンシングのためにイヤイヤする。変な人だな、という感じで見返してきたので視線をそらす。諦めて受付の方は先に入っていった。
待合室で少しだけ待つ。オレの名前が呼ばれる。最初どこからだと思ったが、扉が開く。第一診察室。
診察室に女性の先生がいた。オレは視線を少し逸らしながらどうぞよろしくお願いしますとぺこりぺこりと会釈をする。先生は穏やかな笑顔で椅子を勧める。
「はじめまして、食木崎です。紹介状は拝見しました。ずいぶん長くかかっているようで大変ですね」
食木崎先生は椅子をくるっとしてオレと正対する。ド正面。相手も分かっているだろうし、落ち着くためにも診察室を何気ないそぶりで見渡す。食木崎先生の奥には書棚がありそのなかに「エクリ」の背表紙が見えた。あれ、なんだっけ……誰の本だっけ? ロラン・バルト? デリダ? デリダってだりだ?
そんなことをずっと脳みその一部でずっと検索作業をしている。その間オレは食木崎先生の質問に答えていく。パニック障害の現状、飲酒の状況、感情の起伏の状況。引越てきて、感情が高ぶっており躁に近い状態だが、睡眠薬もつかって努めて規則正しい生活になるようにしている。先生はずっとこっちをみてうなずいて話を聞いている。
「よくご自身をコントロールしていますし、頭もよろしいんですね」
嫌みではなくさらっと言われたのでドキッとした。頭がいい? 精神科のドクターがそんな所感を述べることなんてまったく想定外だったので面食らってしまう。オレはあわあわしながら苦笑いする。さっと話題を変える。
「先生に今後の治療方針と6月の方向性、休職か復職かを相談して決めたくてですね」
目をまっすぐ見てくるのを止めてほしいと思ったがこれが診察の一環かもしれない。食木崎先生は穏やかに返答する。
「行動療法と薬物療法薬物療法はこれまでのものが合っていれば引き続き、そうでなければ減らしたり、変えたりしていきましょう。行動療法は散歩などもやっていきましょう。休職か復職かは、一旦こちらの環境で落ち着いたあと、来週に判断しましょう」
診察が終了すると緊張から解き放たれる。脱力して待合室で支払いを待つ。今までに診てもらったことのないタイプの先生だった。指示的指導はなかったし、ネガティブな言葉もただ聞いてくれていた。
支払いを済ませると帰途につく。坂道をのぼったり下ったり登ったり下ったり。ペダルをこぎながら、回想する。なんか不思議な診察だったな。来談者中心療法なのかなあ。思い起こすと食木崎先生がずっとオレと正対して話をきいていた。ペンすら持っていなかった。なるほど。